最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)455号 判決 1955年7月26日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮野養之助の上告理由第一点について。
論旨は憲法八四条違反を主張するけれどもその実質は旧所得税法の解釈を争うに外ならない。すなわち
(イ) 論旨は先ず原判決が上告人の本件手持ち鋼材を旧所得税法一〇条二項の「仕入品」に相当するとしたことを非難する。しかし若し「仕入品」でないとすれば「原料品」ということになるであろうが、本訴では仕入品であるか原料品であるかは争われておらず、且つ「仕入品の原価」と解しても「原料品の代価」と解しても、結果には少しも影響がない。
(ロ) 論旨は次に税法上の仕入品であつてもある期間を経過すれば仕入品たる性質を失うと主張する。しかし仕入品が単にある年月を経過したというのみの理由によつて仕入品たる性質を失うということはできない。固より仕入品であつても営業上の目的以外に転用すれば仕入品たる性質を失うであろうが、上告人が本件鉄材を仕入れたのは営業上の目的によるものであり、その処分も営業上の目的で行われていること明白である以上、これを仕入品と認めるのは当然である。
(ハ) 論旨は更らに、旧所得税法一〇条二項の「仕入品の原価」は「仕入れし得べき価格」と解しなければならぬと主張する。なるほど「仕入品の原価」を原判決のように「仕入品の現実の取得原価」と解しては、貨幣価値下落の急激な経済情勢の下においては、納税者にとつて同情すべき不利益な結果を生ずる場合もあること所論のとおりであるが、これは法令の解釈としてはやむを得ないところであつて、所論のような解釈を容れる余地はない。論旨は所詮立法論に外ならない。
以上のとおりであるから原判決は正当であつて所論のような違法なく、論旨はすべて理由がない。
同第二点について。
論旨は、原判決が旧所得税法一〇条二項の「仕入品の原価」を現実の取得原価を指すものとしながら、財産税申告当時の統制価格を仕入品の原価としているのは、理由齟齬であると主張する。しかし本件においては被告人は本件手持鋼材の実際の仕入原価が判明しないものとして、これを財産税申告当時の価格である屯当り金二千円(控訴人主張の取得価格はこれより低廉)と評価したのである。旧所得税法一〇条二項で仕入品の原価を必要経費とするのは、納税者の所得計算上そうしなければならないというのであつて、本件のように実際の仕入品の原価が不明な場合は税務官署が納税者の不利益にならないような評価をすることは違法ではない。原判決も本件鋼材屯あたり二千円が取得原価である、というのではなく、第一審判決が、必要経費を屯あたり二千円と算定した被上告人の審査決定を相当としたのは相当である、と判示しているに過ぎない。それ故論旨は理由がない。
以上の理由によつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官の全員一致を以て、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)